2019年1月8日火曜日

『旅のラゴス』筒井康隆(新潮文庫)

書物と珈琲と旅。私の人生を構成する最も重要な要素たちだ。

先日、妻の買い物を待つあいだ、書店で表紙に惹かれ何気なく手に取ったある小説もまたそのすべてがテーマといってもよいものだったのでいっきに引き込まれてしまった。

『旅のラゴス』(筒井康隆著 / 新潮文庫)である。

舞台はここではない別世界。どこかモンゴルを思わせるような平原で幕をあける。主人公は南へとひとり旅をするラゴスという青年。一時的に放浪の牧畜民たちと同行している。ある日大雪を感知した彼らは避難のため故郷へと<集団転移>するという。グループをとりまとめるための<パイロット>を買って出たラゴスはそれを無事成功させる。物静かで篤実な性格のラゴスは皆の信を得るようになるが安住はせず旅を続ける。

途上、彼は幾多の場所を通過し、危険な冒険もし、様々なひとたちと出会う。顔を自由に変えられる者、<壁抜け>をする者、人のこころを読む者、空を飛ぶ者…。前近代的にみえるこの世界の人間たちにはなぜか特殊な能力が芽生えているようだ。いったいなぜ?そしてラゴスがひとり旅をする目的は?

謎はのちに明らかになっていき、真相にまずあっと驚かされるのだが、本書の真の面白さはそこからだ。

旅の長い時間に、ラゴスの人生が、そして世界の歴史が重ねられる。読者は自らの手に収まる現実世界の本という小さな培養器のなか、別世界の成長を見守っていくことになる。そしてその糧となるのが、ラゴスがある時点で目にすることになる膨大な書物と、そして珈琲なのだ(どのように、かは重大なネタバレに抵触するので詳しく書けない)。

書物と珈琲を滋養にひとのこころと世界は深みと豊かさを増していく。偶然とはいえ出来過ぎなくらい自分の店と、そして本ブログの一回目にふさわしい本に出会ったものだ。

物語の面白さに偶然の出会いの興奮も加わりページを繰る手は止まらないが、ページには限りがあり旅には終着点がある。そこでラゴスが見出すものとは何だろう。

私は初めに「人生を構成する最も重要な要素」と書いたが、ひととしてもっと大事なものが抜け落ちているのでは?と思った方もいるだろう。そう。誰しも年をとるごとにそれの大切さに気付いていくはずだ。

見聞を広め、経験を積み、様々なものを身につけ、しかし老いては徐々にそれらを剥いでいき、最期に残るのはやはり「それ」なのかもしれない。

「それ」とは何か。ご自身の目で確かめていただきたい。M